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一軍昇格。
ずっとそれを目指してきた。
嬉しくないはずがない。
はずがないのだが、
「……本当に俺が呼ばれたんですか?」
「どれだけ信用できないんだよ」
元々遠征中の身。
荷物は必要最低限のものしか持ってきてないのですぐに纏まり、準備万端。
明日――正確には今朝に、始発の新幹線に乗ってチームに合流。
そのままナイターだという。
「では、行ってきます」
「失敗を恐れずに気負わずやれよ」
「分かっとります」
タクシーに乗ると駅まで移動。
始発の新幹線に乗ってそのままチームに合流だ。
「……来ちゃいましたね」
「……本当に来たんじゃな~」
東北フェニックス対千葉マリナーズ
二軍の試合ではない。
一軍の試合だ。
関係者専用の入り口から球場入り。
「やっぱり、まずは監督に挨拶が基本ですよね?」
「そうじゃの~、先輩方への挨拶も大切じゃが、まずは監督に挨拶するのが筋じゃな」
「でも、肝心の監督はどこに?」
「どこにおるんじゃろな~」
先にロッカールームに行って構わないのだろうか。
「あ、あの人に聞いてみますか。フェニックスのスタッフジャンパー来てますし、きっとチームスタッフですよ」
「そうじゃな、聞いてみるのが得策じゃろ~」
「あの、すみません」
「はい。何でしょうか?」
呼び止めたフェニックスのスタッフは、随分と小柄だった。
年齢もかなり若く見える。
バイトの学生だろうか。
「自分たち、今日からチームに合流するように言われてさっき到着したんですけど、井原監督はどちらに?」
「監督はまだ来ていませんよ。いつも選手より遅れて球場入りしますから。先にユニフォームに着替えて体を動かしたらどうですか? 僕も忘れ物を取りに戻るところだったんですよ」
何故チームスタッフが選手の利用するロッカールームに忘れ物をするのか。
そう言えば、どこかでこの顔を見たことがあったような気が。
「案内しますよ。こっちです」
小柄なスタッフは先導してロッカールームへ二人を案内する。
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