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嫌な予感を抱えつつ、二人はついていく。
(小湊さん、この人って……)
(偶然じゃの、大河くんと同じ意見じゃ……)
ひそひそ話をしながら、二人は自分たちの予感が外れていることを願った。
「ここです。上に背番号がありますから自分の背番号のロッカーを使って下さい」
「あ、丁寧にどうも……」
二人の耳に説明はほとんど届いていなかった。二人の関心は、この人物が次にとる行動――どこから忘れ物をとるのか――だけに注がれていた。
彼が忘れたというのは帽子だったようだ。
背番号『52』のロッカーから帽子をとった。
((やっぱり……))
外れて欲しいと願った予想は大当たり。
球団スタッフ――学生のボールボーイあたり――と思った小柄な人物は、東北フェニックスの守護神、湊一成だった。
「それでは失礼します」
丁寧に一礼してから湊はロッカールームを後にした。
と同時に小湊と大河はその場に腰砕けに座り込む。
「よりによって、チームを――球界を代表する守護神に道案内させちゃいましたよ……」
「そうは出来ん経験じゃな……二度としたくないが……」
「そりゃ貴重な体験だったな」
監督室で井原は二人の体験をそう評価した。
体を動かして気を紛らわすことにした二人は、しばらくして揃って監督室に呼ばれた。
こうして監督室に呼ばれるのは初めての体験。
井原も、心なしか凛々しく見える。
が、よく見ると、ピクピクと頬や肩が小刻みに震えていた。
必死になって笑いを堪えているのだ。
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