第四章『チーム新編成』

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(ん~、一軍で先発は久しぶりだな……) 無表情でウォーミングアップをしながら、島津は久々の先発に緊張感を高めていた。 プロ入りしたばかりの時は速球主体で打者を圧倒する投球スタイルだったが、肘を故障し、メスを入れる。 調子の良い時は150km/hを上回った速球は140km/hまで落ち、それまでの投球スタイルでは生き残れなくなってしまった。 そこで島津は逆方向に変化するシンカーをマスターし、スライダーと組み合わせて低めを丁寧に攻める技巧派投手として再起する。 その後も故障で二度肘にメスを入れ、その度に変化球を新たに覚え、気付いた時には、 (球種が増えすぎて、キャッチャーが決め球に悩むようになっちまったんだよな……) だから島津は登板する日のブルペンで全ての球種を試し、手応えのある球種を三種類前後に絞ってそれだけを使うようにしていた。 だからこそ困るのだ。 今日のような日は。 (何年に一度あるかの、ほぼ全部に手応えがあると来たもんだ……) しかもバッテリーを組むのは今日が初一軍初マスクの若手。 二軍では何度もバッテリーを組んでいるとはいっても、 「選択肢が多すぎるってのは重荷、だよな……」 ベテランとして、今日は若手に胸を貸してやりたいと思っていたのだが、逆に足を引っ張ってしまっている。 「どうも島津さん、今日はよろしくお願いします」 「あぁ、よろしく」 どうするべきか。 こっちで変化球を決めてしまうか。 「ブルペンから聞きましたが、今日はどの球種も絶好調らしいの~」 おしゃべりが。 若手に余計な重荷になるだろ―― 「今日は全部の球を使うつもりじゃけ。よろしくお願いします」 「……あぁ、よろしく」
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