第一章『開幕前のサバイバル』

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日本中が感動した。 日本中が、その瞬間に酔いしれた。 国別野球対抗戦――WBC。 見事連覇を達成した日本代表選手たち。 一つのチームに纏まった彼ら。 互いを信頼し、託し、繋いだ。 そんな彼らも所属チームに戻れば優勝を争うライバルとなる。 『湊選手、メジャーリーグに興味はないんですか?』 帰国後に開かれた記者会見。そんな質問が湊に向けられた。 『世界一レベルが高いとリーグで自分を試してみたいとは思いませんか?』 湊がメジャーリーグで通用するか見てみたい。 そんな好奇心から出た質問だ。 『残念ですが、僕はメジャーリーグには行きません』 ハッキリと断った。 『確かにメジャーには凄い選手が一杯いてやりがいがあるかもしれません。でも、僕にはまだまだ日本で学ぶことがある』 そう。 湊の野球選手としての人生はまだまだ始まったばかり。 正直未熟さは自分が一番理解している。 まだ自分は多くの人に支えられ、辛うじてプロとしてやっていっている。 その支えてくれた人全員に恩返しをし、一人立ち出来なければメジャーリーグに挑戦など烏滸がましい。 『将来的にそうした選択肢もあると思いますけど、今は日本で全力でやらせてもらいます』 悪戯っぽく湊は笑った。 僅か、一週間前の出来事。 不思議だ。 昨日の事のように思い出せるのに、何年も前の出来事にも感じる。 「ペナントレースが、また始まるんだ……」 あっという間に駆け抜けた一年間。 あの忙しさが、湊に新しいシーズンが始まるという実感を感じさせなかった。
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