第二章『崖っぷちからのスタート』

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開幕第二戦。 東北フェニックスはWBC日本代表投手の青井が先発。 そして、本来マスクを被るはずの伊吹の姿はそこには無かった。 青井の投球は本調子には程遠いものだった。 疲労もあるだろうが、それ以上にリードが青井を活かしきれていない。 一番に戻った大道寺が打線を引っ張り、何とか乱打戦に持っていき一点のリードを守って最終回へ。 このリードを守護神湊が三人でピシャリと抑え、試合を終わらせる。 二試合続けて勝ちパターンに持っていったフェニックスだが、早くも疲労の色が見え隠れしていた。 「こりゃ開幕から二戦でやる試合じゃないな」 試合後、井原はそうコメントを残した。 ペナントレースは長期戦だ。 開幕だけではなく、先の先を見据えた試合、チーム作りが求められる。 その長いペナントレースの最中には絶好調の時もあれば絶不調の時もある。 選手全てが期待通りの成績を常に残せるとは限らず、逆に期待以上の力を発揮することもある。 予期せぬ展開になろうとも試合を作り、チームを作っていく。 それが出来て、初めてペナントレースを勝ち抜けるのだ。 しかし、連勝したフェニックスにはそれ――先を見据えた戦いが出来ていない。 行き当たりばったりでは必ず途中で失速してしまう。 そんなフェニックスにあって、一人の選手が開幕から出口の見えない迷路に迷い込んでいた。 二試合続けて四番に入った劉である。 体の調子は悪くない。むしろ、これまでで最高の仕上がりと自信を持って言える状態なのだが、試合で結果が全く残せない。 二試合で十打席回ってきたが、全打席三振。 日本プロ野球で野手としてワーストとなる十打席連続三振。 来日一年目にして、不名誉な記録を作ってしまっていた。 チームの精神的柱を失い、新四番は打球が前に飛ばない。 東北フェニックスは、連勝しながらピンチの渦中にいた。
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