第三章『変わる勇気と変わらない勇気』

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何が悪いのか。 日付が変わるか変わらないかという深夜、劉は日課になっている素振りをしながら自問自答していた。 体調も、調子も悪くない。 確かに日本のプロ野球のレベルは高いが、台湾と比較してそれほど圧倒的な差はない。 事実、アジアシリーズでもWBCアジア予選でも、自分は結果を残していた。 日本では故障のリスクが高く敬遠されがちな変化球を、当たり前のように多投することは事前から知っていたので戸惑いは小さかった。 それは、それまで有名な“カミカゼ”かと思ったが、このチームに来て考えを改めさせられた。 フォークがウイニングショットのエース高山は、そのフォークに適応した体を作ることで故障のリスクを軽減していた。 特攻ではなく、綿密且つ入念な準備をするプロ意識。 日本野球が何故強いのか、その片鱗を見た気がした。 が、自分もプロ意識と実力では負けているつもりはない。 なら、何故なのか。 「ん~……今のままの試合が続いたら、交流戦の時期には息切れするよな……」 各種様々な資料の山を前に、井原はぼやく。 湊に頼りっぱなしだった昨シーズンを反省し、今年は極力頼らない戦いをとの方針でスタートしたはずだったが、現実はこれだ。 伊吹というチームリーダーが開幕戦で離脱したことが、東北フェニックスというチームの歯車を僅かに狂わせているのだ。 今は小さな違和感だが、これは次第に不協和音へと変わるだろう。
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