ひとりぼっち

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背中を丸めてトボトボ歩いていたあたしは 1つの小さな看板の前に立ち止まった。 看板には "マジックバー.シークレット"の文字。 サビついたドアノブを回すと薄暗い店内のカウンターに背の高い男の人が立っていた。 バーのマスターらしい彼は事情を話すと 「辛かったんだね」 と一言だけ言うと そっとあたしを抱きしめてくれた。 人と触れ合うことがなかったあたしはただ目を瞑り体を固くするだけだった。 もう一度目を開いた時、 疲れで寝てしまったらしいあたしは埃っぽい部屋のベッドの上に寝かされていた。 部屋を出ると優しくマスターは 「開いてる部屋なんだ…今日から君の部屋だからね」 とあたしに笑った。 次の晩からあたしはがむしゃらに働いた。 恩を返すためにも。 トランプ片手に人の愚痴を聞いたり、 飲めないお酒を出したりした。 働かないと居場所がない… 自分の居場所を守りたい… そんな思いで切るトランプは いつかの "自分も他人も笑顔にする道具"から "たった一本の命綱" になっていた。 楽しかったマジックも無機質で事務的な作業になって 重くあたしの肩にのしかかった。 でも、働かないといけない。 周りの楽しそうな雰囲気に囲まれるあたしは 最高の作り笑いを浮かべながらいつも訳の分からないモヤモヤに苦しんでいた。
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