消えた記憶

6/7
前へ
/79ページ
次へ
考えてみれば、いや考えなくても確かに俺は酷い男だった。 父親の会社の借金のカタに、と遊里を買い。 俺に初めてを奪われるのは嫌だからと、他の男に抱かれてきた遊里を乱暴に抱いた。 最初は脅迫じみた関係だったのだ。 ……その頃の事までしか覚えていないのだから、遊里の今の反応は正しいのかもしれない。 だが…俺の記憶にはしっかりと残っているのだ。 あの日から大事に育んできた…二人の歴史が。 「…海斗君、すまないね。」 泣き疲れて眠る遊里を見つめたまま、お義父さんが言う。 「…いえ。ありがとうございました…。」 深々と頭を下げるとお義父さんが俺に向き直った。 「きっと、思い出すよ。大丈夫…二人はあんなに愛し合っていたのだから。だから…遊里を責めないでやって下さいっ……」 向き直ったお義父さんの顔は涙でぐちゃぐちゃで、更に床に膝をつき頭を下げる。 「や、やめて下さいお義父さん!!」 慌てて俺もひざをつき、お義父さんの体を起こした。 「…私は、遊里を責める気などありません。あんな態度をとられて当然な事を俺はしてしまったんです。…それに、記憶喪失になったのは…事故のせいですから。」
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6741人が本棚に入れています
本棚に追加