思い出したい、思い出すのが怖い…

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お父さんの会社の借金をたてに私を脅して…。 そこまで考え、私は首を振った。 考えようとすればする程頭に激痛が走るのだ。 まるで、「そんなわけないだろう」と、私の消えた記憶が怒っているかのように―――。 「来たな、座りなさい。今日は遊里の好きな蕎麦だぞ。」 微笑む旦那様に軽く頭を下げ、席につく。 あ…椎茸…。 私の天敵の椎茸を器の中に見つけ思わず嫌な顔をしてしまった。 その途端、長い腕と箸が私の器に伸びてくる。 「すまない、いつもは遊里がそっと俺の器に移していたから…今取るよ。」 そう言って、旦那様は椎茸だけをキレイに自分の器へと移した。 旦那様が、私の嫌いな食べ物を代わりに食べていたって事? …まさかそんな…あんな冷酷な人だったのに。 戸惑う気持ちを必死に隠し左手で箸を握る。 が…。 右利きの私が左手で上手く食べられるはずもなく、麺は虚しく箸の間をすり抜けていった。 何度やっても。 その様子に気づいた旦那様がそっと席を立つ。 私の横に席を移し、私が握っていた箸を取って笑った。 「気づいてやれなくてすまなかった。利き腕を骨折したんだしな…。さあ、口を開けて。」 その言葉に怪訝な顔をしてしまう。 ……何…? これは本当にあの旦那様なの? 今と記憶にある旦那様の姿は差があり過ぎだ。
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