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優しく私を見つめる瞳も、その微笑みも今の私にとっては初めて見るものばかりで…。
私は顔を背け、何か話しをそらそうと話題を探した。
「…私の、子供達はここにいないんですか?」
「ああ…医者が…すぐに子供達と暮らし始めると混乱するだろうから、まずは夫婦で慣らしてからにしなさいと言っていたからな。兄さんに預けてある。」
お兄さん?
お兄さんがいたなんて初耳だ。
だけど…子供を預けられる程の間柄なのだから私も面識はあるんだろうな。
「そうですか…。」
「ほら遊里、口を開けなさい。」
話しをそらしたつもりが。
旦那様はまだしつこく蕎麦をすくい上げている。
「……」
仕方なく口を開けると、温かい蕎麦が口の中に入れられた。
美味しい…。
その美味しさに思わず笑みがこぼれる。
「美味しいだろう?お前はこの蕎麦が好きだったから…」
旦那様の嬉しそうな声が胸に刺さった。
ここまでしてくれるなんて…。
もしかしたら私達は本当に愛し合っていたのかもしれない。
一瞬その思いが頭をよぎる。
でも同時に…あの日の旦那様の顔が私の脳裏に焼き付いて離れないのだ。
…無理やり抱かれた、あの日の痛みと共に…。
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