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隣でスヤスヤ寝息をたてる旦那様を、ただぼんやりと眺めていた。
…行為の後。
旦那様はまるでそれが当たり前かのように私を腕枕した。
そしてもう片方の腕で私を抱き寄せ、頭を撫で……。
「遊里、愛してるよ。…もう寝なさい。」
そう囁き、深い眠りに落ちていった。
だけど私は眠れそうにない。
だってそうでしょう?
父親を脅し、私を買った男は私を乱暴に抱いた。
あの日の痛みと恐怖は……言葉では表せない程だった。
憎んで…自分の心すら消そうと思った。
なのに…さっきまで私を抱いていた男は…。
考えると涙が溢れる。
何故あんなに優しく抱いたりしたの!?
何故、あんなに甘い声で私の名を呼ぶの!?
愛してるなんて…囁くの…?
こうして失った記憶の頃の私もほだされていったのだろうか?
酷くされた後に優しくされ…愛しいと囁かれ。
私も…思わず心を許してしまう所だった。
…でもダメ。
旦那様のせいでお父さんは泣き、自分を責めながら私を送り出したの。
それに、この体が覚えている。
あの日の恐怖と絶望を――。
私は決して旦那様に心を許したりしない。
…11年間の私は間違っていたのだ。
もう、あの男を愛したりはしない―――――。
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