消えた記憶

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旅行には心底行きたかった。 だが、社員も何人かは夏休み返上で働かなければならなくなったのに…社長の俺が夏休みを取るわけにはいかなかった。 遊里の怒りも最もだ。 約束をしたのに、結局破る形になったのだから。 『話しがある。』 と遊里からメールが来て正直緊張した自分がいた。 旅行を楽しみにしていた遊里。 何の話しを…? もしかしたら別れ話か!? などと不安に思いつつ、遊里がそんな事くらいで離婚を言い出すものかと『分かった。待ってるから気をつけて』と返信した。 だが…遊里は来なかった。 代わりに電話が鳴り、俺はその電話で事故を知ったのだ。 体中の血が引いていく。 電話を握る手は震え、秘書の安田に説明しようとしてもうまく伝えられない。 優秀な安田は何とか理解してくれたが…俺は一人ではとても病院まで運転が出来ない程に混乱していた。 安田の運転で病院に着き俺が見たのは…頭に包帯を巻かれ、酸素マスクに点滴、心電図まで取り付けられた遊里の姿。 医者の話しでは命には別状はないが、足を骨折し腕や頭も20針は縫ったという。 「良かった…生きていてくれて…。」 呟くと涙が溢れた。
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