三杯目

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    一日だけの監禁事件から十数日が経過した。 勿論その間にも喫茶店のバイトに行ったのだが、どうも瑞希さんが入り浸っている。 それに、ずっと俺に話し掛け、コミュニケーションを取ろうとしていた。   ……瑞希さんとは仲良くして行きたいが、どうも瑞希さんの表情がおかしい。こう…他人と話す時と、俺と話す時との表情が違う気がする。   自惚れかもしれないが、瑞希さんは笑顔を貼り付けているんじゃないかと思う。 どちらが本物、とは言えない。 どちらも偽物、とも言える。     とにかく、瑞希さんは表情の雰囲気が微妙に違っていた。 学校も終わり、何時も通り喫茶店で働いていると、しばらくして瑞希さんがやって来た。 瑞希さんは俺を見た瞬間に、表情の雰囲気が変化した……ような気がした。     「睦月くんっ、唐突ですが、海に行きませんか?最近は日差しも強いですし、絶好の海日和ですよー?」   「……バイトです」     「マスター、駄目…?」   「睦月君の同意を得たならば、構いませんよ。睦月君、バイトは自由に休んでも大丈夫ですから」       などと言われてしまったら、拒絶したら瑞希さんが悲しむだろうな。 俺は首を縦に振って賛同し、瑞希さんは嬉しそうに笑顔になった。元々笑顔だが、本当に喜んでいるような気がして、少し良い気分になったのは秘密だ。   思い立ったらすぐに実行らしく、明後日に海へ行くことにした。明日は二人共水着を買いに行くための日であるらしい。     それからは、瑞希さんは終始上の空で、ほんのりと赤く顔を染めたりして虚空を見つめていたりしている。   椅子に座らせ、バイトが終わるまでずっとその状態を保っていた瑞希さんだった。  
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