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仕方がないから、運良く近くにあった自動販売機で水を買い、着物を着ている女性に手渡した。
女性は取りあえず体を起こし、蓋を開けて水を口に含んだ。
「……んく…」
「酒の飲み過ぎは体に毒です」
注意のつもりでそう言ったのだが、女性から帰ってきた返事は全くもって予想外な返事だった。
女性は多少頭痛が引いたのか、涙目になりながら目線を反らしている。
「あぅ…一杯だけなんです…」
コップ一杯で、そこまで酔ってしまうほどアルコール度数が高いのか……それとも、極端にこの女性が酒に弱いのか。
それにしても、流石にコップ一杯であんな状態になるのは色々凄い。
俺も過去に飲料水と間違えて酒を口にしたこともあったが、ここまで酷くはならなかった。
「こんな所で倒れていると、いずれ誰かに襲われますよ?」
「…そうですね…ありがとうございます」
俺は携帯を取り出し、バイト先の店長――マスターに掛けた。
何故か掛けた直後にマスターが出たのは驚いた。だが、ただ驚いてもいけないのでマスターに手短に女性の事を話した。
どうやらマスターは女性について面識があるようで、すぐにこちらに来るとの事。
その間に俺は女性と共にいて、女性の暇を潰そうと思った。
「今は、偶然俺が通りかかったから良かったですが、こんな時間帯に女性一人で居たら危険ですから、今後は気を付けて下さいね?」
「はい、すみません……私は瑞希、と言います。訳あって名字は言えませんので……」
「俺は神流 睦月です。もしもまた今度お会いしたら、その時は素面でいるのを願いますね」
苦笑しながら言うと、瑞希さんは跋が悪そうに頬を軽く膨らましていた。
その表情はとても幼く見え、更に俺を笑わせる対象となった。
しばらく話していると、マスターがやって来て瑞希さんを連れて行くようになった。
俺はマスターに瑞希さんを任せ、二人と別れた。
「……マスター、睦月君はマスターの言っていた通りの人物でしたね」
「えぇ、彼ほどの人はそうそうお目にかかれないですから」
これが、俺と瑞希さんとの出会いだった。
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