ピエロのあいさつ

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「おっと、わたくしもそろそろ鏡の外にでる機会が与えられたようです。では、行ってきます」 「どこに行かれるんですか……?」 私は初めてピエロに話しかけることができた。 「失礼しました。わたくしの行き先を言っていませんでしたね」 ピエロは微笑みながらこう言った…… 「今夜あなたの家にお邪魔するかもしれません……」 すると、再び甲高い声で笑い始める。 先ほどまで気味が悪いとしか思っていなかったピエロの顔が急に怖くなった。 私にはわからない…… ピエロの優しい微笑みの奥に潜む欲望が…… 「では、皆さんお元気で。サヨウナラ……」 ピエロは私に背をむけ闇の中に向かう。 2、3歩動いたところで立ち止まり私に背を向けたまま私にこう言った…… 「あなたの番はまだ先ですよ…」 ピエロはそう言い残し、甲高い笑い声とともに闇の中へと姿を消して行った…… 私はピエロの姿が完全に見えなくなったころ、重大なことに気づいた。 「家に帰らないといけませんねぇ」 私は走ろうと思い、足を一歩踏み出した。 「どうやって……どうやって帰ればいいんでしょう……」 急に額から無数の冷や汗がでてきた。 私は再び辺りを見渡す。何度も何度も見渡した…… (ん……?) 私はあるものを暗闇の中で見つけた。 (さっきのピエロが落としたのでしょうか?) 見つけたものは裏返しに落ちている白い手鏡だった。 私はそれを手に取る。 (まぁ、これだけ暗いなら自分の顔も映らないですよね……) そう言いつつも鏡を自分のほうに向ける。 私は心臓が止まるかと思った。 信じたくなくて後ろを見てからまた鏡を見た。 私はこの動作を何回続けただろうか…… 私はこの時、初めてピエロが言い残した言葉の意味がわかった…… 『あなたの番はまだ先ですよ』 私の番はいつになるのだろうか…… 私がこの小説を書き終えた時、もしかしたら先ほどのピエロのように鏡の外に出られる機会を与えてもらえるのかもしれません…… ピエロ…… もうそう呼ぶのはやめましょうか…… 『ジャック』…… ちゃんと名前で呼びましょうか…… そうじゃないと…… 皆さんはピエロと言われても私とジャックのどちらのことかわからないですよね…… 「アハハハハハハハハ」 私もこんな甲高い笑い声がでるようになったんですね……
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