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すると、
「はい、これ!」
床に落ちているだろうと考え、やや前屈みになっている俺の目の前に、上向けられた手のひらが伸びてきた。
そしてその手のひらの上には、銀色に輝く百円玉が一つ。
「あ……ありがとう」
俺は体をあげ、正面に目を向けた。
そこには、にこにこと微笑む男の姿があった。
やや茶色がかった黒髪に、色白い肌。
身長は俺と同じくらいだから、たぶん172、3㎝程。
微笑んで下げられた眉尻は、男を優しげな者と感じさせる効果を持っている。
それなのに、シャツがズボンからはみ出ていたり、ベルトが赤やら黄色やらの派手な色をしていることに気がついてしまえば、俺の男への印象はがらりと変わった。
見た目での第一印象は……不真面目そうなやつ。
「たしか……同じクラスの……」
俺はお金を男から受け取りながら、そう言った。
「高槻 克(タカツキ スグル)。そっちは?」
「……坂本 真也(サカモト シンヤ)」
「坂本 真也か。よし、覚えた!
真也、なっちゃんおいしいよ」
「え?」
克が指差した方向に目を向ければ、そこにはなっちゃんのオレンジ味があった。
ちなみになっちゃんとは、言わずと知れているであろう、とある飲料会社のメーカー品。
なにをいきなり言い出すんだと思う。
だけど、それよりも驚いたことがあるわけで……
「……今俺それ買おうとしてた」
「えっ、マジ!? 気ー合うね、俺ら!」
一人テンションがあがった様子の克の前で、俺はお金を入れ、自販機のボタンを押した。
もちろんなっちゃんのオレンジ味。
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