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「ラーメンでも食べて帰るか?」
「うん」
「和真くん、今日は何も予定がないのかい?」
「今のところは何も…」
と答えた途端、僕の携帯が鳴った。
ディスプレイの表示は公衆電話。この番号を知っているのは、父と母と真奈美だけ。
つまり、僕に電話をかけているのは母か真奈美のどちらかで。
「…お兄ちゃん?」
電話に出た僕の耳に飛び込んできたのは、鼻水をすすりながら泣きじゃくる真奈美の声だった。
「…助けて、お兄ちゃん」
「どうした!?」
「わ、わたし…家に帰れない。どうしよう…どうしたらいい?」
「今、どこにいる?」
「ひっく…駅…近くの…わたし、どうしよう。殺しちゃった……」
振り絞るような声に公衆電話が十円玉を飲み下す電子音が重なり、僕と真奈美を繋いでいた回線は唐突に切れた。
「父さん、ごめん。急用ができた」
「えっ?」
前にも一緒に行ったことがあるラーメン屋に向かって車を走らせていた父が怪訝な顔をする。
「急にどうしたんだい?」
反対側の車線にバスを見つけた僕は、赤信号で停まった隙にドアを開けて車を降りた。
「お…おいおい、和真くん!」
「ごめんなさい。帰ったら話すから」
父が窓を開けて何か言ったけれど、バスを追いかけて走る僕に振り返る余裕などなかった。
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