序章

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〈子犬をもらってください〉  学校から駅までの帰り道、閑静な住宅地の電信柱に、そんな貼り紙を見つけた。  もらってください、という謙虚な一行に、僕は思わず足を止める。  子犬が生後40日の雑種であることと、連絡先の電話番号。以下余白。  雑種というだけでも致命的に不利なのに、雄なのか雌なのか、どんな毛色をしているのか、何頭いるのか、詳しいことは何も書かれていない。  それはまるで、不細工だろうと何だろうと一切かまわない、とにかく犬が大好きな人に里親になってもらいたいという願いがこめられているような──。  前にも一度、似たような貼り紙を見つけて立ち止まったことを思い出す。  そのときは犬じゃなくて猫で、夕方じゃなくて真昼で、買い物袋を提げた母が一緒だった。  
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