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『お母さん、好き? 可愛い猫』
『うん、好きよ。猫も犬も大好き』
そう答える母の顔は慈愛に満ちていて、飼ってもいいと言ってくれるかもしれない期待を僕に抱かせた。
躾もちゃんとするし、ご飯は僕のを分けてあげたらいい。
だけど、母は僕がそれを提案するより早く、
『でも、うちでは飼えないの。わたし、動物の毛が駄目だから。クシャミが出ちゃうんだ』
『好きなのに?』
『そう。好きだけど駄目なの』
それが使い慣れた言葉だったことに言ってしまってから気がついた母は、僕から視線を外して空を仰いだ。
僕も振り返って、登り坂の頂上の青空を見上げる。
それっきり猫の話はできなかった。
どんなに好きでも欲しくても、母にはあきらめなければならないものがたくさんあったから。
あきらめて、そして、僕がここにいるのだから──
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