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「人間って自分にないものを求めるじゃない? ワリと」
「悪いけど急いでるから、そういう難しい話は勘弁」
「あたしと篠崎くんって犬と猫ぐらいタイプが違うでしょ? あ、犬があたしで猫が篠崎くんだけど」
人の話をまるで聞いていない坂井は、逃げるような足取りで先を急ぐ僕に歩調を合わせて犬のようにまとわりつき、悩んでる少女とやらの独り言を延々と続けた。
「性格とか趣味とか価値観とか、そりゃあ似た者同士のほうがいいんだろうけど、それだと開拓の余地がないっつうか向上心に欠けるっつうか、お互いに少しずつ似てくるってのがいいのよ、あたしとしましては」
「あっそう」
僕としましては、こんな機関銃みたいに喋りまくる坂井に影響されたくないから早く一人になりたかったんだけど。
「あっそう? ひどいなぁ、人が一世一代の〈告白〉をしてるっていうのに」
不意に二の腕を掴まれ、上半身が下半身に置いていかれそうになる。
「告白? 今のが?」
僕は坂井の顔をしげしげと見つめた。
どこをどう解釈するとそうなるんだろう。根拠も脈絡も何も見当たらない。
ちょっといいなぁ~の部分にしたって社交辞令にしか聞こえなかったというのに。
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