序章

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「悪いけど、僕は」 「急いでるから難しい話は勘弁?」 「う、うん」 「図書館、あたしも行こうかなぁ」 「え…」  それはちょっと、困る…。  図書館には勉強をしに行くわけじゃなかったから。 「一緒に行ってもいい?」 「明日──明日だったら時間あるから」  明日だろうと明後日だろうと永久に勘弁してもらいたいのに、つい適当なことを言ってしまう。  というのも、坂井が僕の腕をしっかりと掴んだまま放さなかったからだ。  振りほどくには嫌悪を顔に出さないよう細心の注意を払わなければならない。 「明日かぁ」  ふわりと風が吹いて、坂井は顔に落ちた前髪を払いのけるため、やっと僕の腕を放してくれた。 「ま、いいわ。伏線は張ったことだし、今日のところは解放してあげる」  そう言って一歩下がって僕から離れると、満足そうに微笑んだ。首を少し傾けて。  左の耳たぶにピアスのようなホクロが一つ。  女の子は自分がいちばん可愛く見える仕草を研究していて、坂井の場合、普段は髪に隠れて見えない耳がチャームポイントなんだろう。  
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