一.鬼と同心

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「ですからっ!あの様に野蛮な極道者が半端に首を突っ込むものですから、町人がやれ最近の役人は怠けているだの、(あや)しの物に怯えているだの、在らぬ噂を立てるんです。なのに片岡さんときたら、事もあろうに突っ立って、あの鬼の男の話題に聴き入っているんですから」 あながち噂だけでもあるまい。とは思うが、今は口にするべきではないだろう。事を荒立てぬように 「あの様な輩の行う事ですからね。いずれ、綻びが出ますよ」 笑って立ち去ろうとしたが、相手は更に言い募ろうとする。 仕方がない、少々嫌味ったらしいが…… 「さぁ、ここで話し込めば、また怠け者呼ばわりですよ」 そう言えば、井上の顔は引き攣り、開かれた口はぱくぱくと無意味に上下されるだけとなった。 顔を見ない様にして、その場を立ち去る。
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