十四.終幕

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「松之丞様!お聞きしたい事がございやす!」 あまりの気迫に押され、刀次は無礼を咎めることなく叫ぶ辰蔵殿を眺めている。 俺に至っては、呆然と開いた口が塞がらぬ状態だ。 辰蔵殿をここまで叫ばせる何かを、俺が知っているのであろうか? 「若のっ!……いや、刀次親分の惚れなすった方は、一体ェどんな御方なんでございやしょうか!」 な、何と! 思ってもみなかった問い掛けに、金魚の様にぱくぱくと口が上下する。 だが、よくよく思い返してみれば、門扉での歯切れの悪さは、この事であったのだろう。 どう答えるべきなのだ、これは。 しかしながら……と言うか当然、それを刀次が黙って聞いておる訳が無い。 未だ金魚のままの俺の答えを待たず、激昂した。 「辰蔵ォ!断りも無く俺の部屋に入ェッた挙句、何ぬかしやがるッ!」 だが、息も荒く仁王立ちになっていた辰蔵殿は、その怒りを無視して真っ直ぐに俺に詰め寄った。 礼儀正しく、刀次への忠義を一番とする辰蔵殿らしからぬ行動である。 「ど、ど、どこでそんな話を聞き及んだのだ。た、辰蔵殿」 吃音甚だしいが、何とかそれを口にすることが出来た。 刀次の口からではあるまい。常の刀次は、ゆのか殿への気持ちをひた隠しにしている。 それであの分り易さはどうかとは思うが、ゆのか殿が白木組に足を運ばぬ限りは、辰蔵殿に知れることは無いだろう。
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