十四.終幕

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「昨晩庭に侵入してきた賊に向かって親分が叫んでらしたじゃねェですかィ。確か……ゆのか、とか何とか。あれ程必死になるって事ァ、大切な御方に違ェ有りやせん」 前言撤回だ。刀次の口から知れていたらしい。 「いい加減にしやがれ!お前ェにゃ関係ねェこった!!」 ゆのか殿の名が出た所で、抑え切れなくなったのであろう。刀次が再び怒りの声を上げる。 今度は辰蔵殿も聞き流すことはせず、刀次に向き直ると俺から離れ、そちらに詰め寄った。 「関係なくなどございやせん。お怒りになるだろうから、黙っとこうかとも思いやしたが…… 親分の想い人となりゃ、将来白木組の跡継ぎを生みなさるということでしょう。黙ってなぞいられませんや」 うぅむ。かなり話が飛躍している気がしないでもないが、刀次のゆのか殿への執心振りを見ておると、あながち無いとも言い切れぬ。 「ば、馬鹿野郎ォッ!ゆのかは、まだ……ッッ!!」 跡継ぎ云々の話で動揺でもしたのか、刀次が口を滑らせた。 辰蔵殿の顔に浮かぶのは、確信の色。 その直後、勢い良く立ち上がった刀次は、辰蔵殿に背を向け襖へと向かう。 「おらッ、ぼさっとしてンなィ、松之丞!とっとと飲みに行くぜ!」 逃げる気、だな。 確かにゆのか殿の気持ちもはっきりせぬ現状では、探られたくない事に違いあるまい。下手をすると、辰蔵殿がゆのか殿の許まで赴きかねない。 「そ、そうであったな……」 とにかく頷き、立ち上がった。 「お待ち下せぇ、松之丞様。確か、一つ貸し……の筈でございやすが」
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