十四.終幕

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「う……」 急に冷静な口調に立ち返った辰蔵殿が、俺を呼び止める。 そう言えば、そんな事も…… 貸しを持ち出されて、行きかけた足はぴたりと止まってしまった。 「松之丞!ちらッとでも漏らしやがったら、ただじゃ置かねェからな!」 俺の動揺を感じ取ったか、刀次が鋭い声で釘を刺す。 己だとて、先程口を滑らせたではないか…… 「気にする必要はございやせん。あっしが手出しはさせやせんから」 辰蔵殿の口許は笑っているが、目は笑っていない。蛇に睨まれた蛙の如く固まった俺の体から、冷や汗だけが次々と流れ落ちて行く。 前門の虎、後門の狼とはこの事であろう……いや前門の鬼、後門の龍か? そんなどうでもいい考えばかりが、頭を占める。 と、強引に首根っこを掴まれ、部屋から引き摺り出された。 刀次の仕業だ。 「親分、卑怯ですぜ!」 叫んで追いかけ様とする辰蔵殿に 「卑怯で結構!走るぜ、松之丞!」 捨て台詞を残して駆け出す。俺を引き摺ったままにだ。 後の事を考えると恐ろしい限りだが、ゆのか殿を巻き込む訳には行かぬから、仕方があるまい。 「松之丞様!今度絶対ェ話して貰いやすぜ!」 追い縋る様な辰蔵殿の声を聞きながら、刀次に外まで引っ張り出される。
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