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後ろに控えていた影達は、凶行の主を探すべく踵を返す。
刹那、飛び出した影が中の一人に襲い掛かった。全体像は計りかねるが、闇に煌めく牙と爪が、標的に喰い込んでいる事だけは判る。
「うがぁっ!!お、おやぶ、助けっ」
必死に手を延ばし、親分と呼ばれる影に助けを求めるが、返ってきたのは
「成程な。それであの死体ッてェ訳かい」
と、冷たい言葉。
そして……
「お前ェそのまンまでいろよ、逃げられッちまうからよォ。まァ、お前ェはくたばるがッ!」
地を蹴る音と、風を斬る音。
「化けもんも、くたばる」
光が一閃する。崩れ落ちる、襲った者と襲われた者。
「運がなかッたなァ。お前ェも、そいつもよ」
呟いた声は低く、暗い。
雲が切れ、月明かりが声の主を照らす。端正な横顔に艶やかな光は映えたが、口許に浮かんだ笑みと顔の半分を染める朱が与えるものは、戦慄のみ。
味方であろう、周りの者の口から、ぽろりと一言漏れる。血の気の失せた唇から発せられたそれは微かなものであったが、親分と呼ばれた影に似合いであろうその言葉は、風に乗って辺りに木霊した。
――鬼、と。
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