一.鬼と同心

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砂埃が舞う道を、ゆっくりと歩む。腰の十手が、ちりちりと音をたてる。 日本橋界隈は、今日も人また人、である。 「買った買ったぁ!白木組(しらぎぐみ)がまたお手柄だぁっ!!」 瓦版屋の声に、ふと足を止める。周りの者達も同様で、口上に聴き入っていた。 「さぁさぁ、そこ行く旦那方に、姐さん方。噂の連続事件の結末!鬼の刀次(とうじ)の大立回り!余す事なく記したこの一枚、買わなきゃ損だよっ!!」 その言葉で、皆一斉に瓦版を買い求め始める。俺はといえば、知った者の名に足を止めただけであるので、相変わらず同じ場所に立ち尽くしていた。 「片岡さん」 しばしその光景を眺めておったのだが、呼び掛けに振り向くと、年嵩の同心が渋い顔で立っていた。 「これは、井上殿。どうされましたか」 言いたい事は分かっているが、空とぼけて尋ねてみる。 「まったく、どうしたじゃあないでしょう。そのように、往来でぼんやりなどと。ただでさえ、ねぇ」 わざとらしく溜息をつく井上の視線の先には、瓦版屋に群がる者達。 やれやれ、面倒な。 「何がですか」 俺は尚も、とぼけ続ける事にした。 これには相当苛立った様で、井上の声が一段高くなる。
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