一.鬼と同心

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まったく、内実が伴わぬのに、口ばかり達者な者が多いことよなぁ。 ひとりごちながら歩く。 もちろんその様な者達ばかりが侍、という訳ではないのだが…… ここまで考えた所で、華やいだ声に思考を遮られた。 「噂をすれば、か」 大通りを、こちらに向かって来る男。 緋色の派手な着流しに、路考茶の襟巻き。役者かと見紛う程に整った顔立ちをしているが、不機嫌そうに引き結ばれた口許と鋭すぎる目の光は、到底役者のものでは有り得ない。 甘ったるい声を上げる女達が、後ろに群がっている。 その声に顔をしかめ、肩にかけられる手を邪険に払いのけている様を見ると、その状況を満喫している訳ではなさそうだ。 「ちッ」 舌打ちをし、こちらを見た所で俺に気付いた様だ。目が合い、僅かながら唇の端が持ち上がる。 「よォ、松之丞(まつのじょう)じゃァねェかィ」 大股で歩み寄って来る。どうやら逃げる口実が出来た事を、喜んでいる様だ。 「おう、刀次。相も変わらず、羨ましい事だな」 後ろの女達を見遣り、少し茶化してみる。途端に、刀次の表情が先程までの険しいものに戻ってしまう。
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