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「はっ、何が羨ましいってェんだ。手前ェが乗り気の時ァ構わねェがな、そうでねェ時に好き勝手騒がれちゃ、迷惑以外ェの何もんでもねェや」
女達を一瞥すると、消えろとでもいう様に手を払う。
一斉に「そんなぁ」だの「酷いわ、刀次さん」だの不満の声が上がるが、言葉程傷付いた風もなく、おそらく刀次のこんな態度には慣れているのだろう、一人、二人と去ってゆく。
いやはや、世の男達からすれば、やはり羨ましい身分だ、と俺は思うのだが、刀次には当たり前の事なのであろう。
さて、刀次はと言えば、去ってゆく女達を振り返りすらせず、俺に向かって
「なぁ、松之丞。どうせ暇だろう、一杯やらねェか」
そう言い放った。まったく馬鹿にしている。
「お役目中だ!」
怒りを込めて返すが、
「お役目ねェ。ンな事言ってもよ、お前ェ。考えてもみろ、昼の日中からァ、化けもん共が騒いだ事があったか?無駄なこたァ、止めちまえって」
と一向に意に介していない。そして確かに、その通りなのだ。
鬼が動き出すのは概ね夕刻頃である。俺自身、昼に見廻りなぞするよりも、夜に備えて鍛練する方が有益であると思っているし、そう上に進言した事もあるくらいなのだが……
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