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その夜、怒りと興奮でクシナダはなかなか寝付けないでいた。
床の中で何度もゴロゴロと寝返りをうつ。
しかしとうとう眠ることができずに跳び起きた。
(ダメだ。外の空気でも吸ってこよう。風に当たれば気分も落ち着くかも)
ノロノロと褥(しとね)から這い出して、クシナダは音をたてないように戸を開けた。
夏の夜風がやんわりと頬を撫で、心地よい。
太陽が姿を見せなくなってから、同様に月も姿を見せなくなっていた。
月明かりのない夜の闇は深く濃く、ぞっとする程静かだ。
(………あいつは眠れてんのかしら……)
ふとスサノオのことが気になって、クシナダはスサノオのいる客用の館(たち)の方に目を向けた。
あまり多くを語らず、何が何やら謎だらけだ。
何故、天界から下界にやってきたのか……
アマテラスの名を聞いた時に表情が険しくなったのは何故なのか……。
ここがイズモだと知った時に呟いた「あのアマ」とは誰のことか……。
筋骨逞しい丈夫(ますらお)である海の男達が、あんな華奢な神様に祈りを捧げているということがなんだか不思議である。
痩身のせいかどこか頼りなげで、片膝を抱えて空を見上げていた姿は消え入りそうに儚かった。
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