2109年、今日は土用の丑の日

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現在、医療は素晴らしい発展をとげた、治らぬ病気はほとんどなくなった。ただどうしても一部の治らぬ病気の場合だけ特別な病院に行くが、普通は成人式と同じ施設だ。 共通してるのは皆さんが80才ということ、たまに例外を除いては。例外的に70才以上の配偶者であれば本人が希望した場合のみ招待される。しかも全員健康そのものに見える。痩せすぎず肥りすぎず程よく身の引き締まった体型の元気そうな老人ばかりだ。世の中は健康ブームや健康志向が進み、メタボリックや成人病で太るなんて社会的に許されない時代になっていた。昔は会社の健康診断にも法定検診に成人病検診などと生ぬるい検診があったらしいが、今は誰もが健康管理に気をつけて運動してバランス良い食事をしている。程よく筋肉と脂肪のバランスも丁度よい具合だ。癌の特効薬こそ出来ないが息の匂いで癌の人がわかる検査装置が出来てから早期発見は進み、成人病対策も進み国を上げてこの対策に取り組んだ賜物である。  施設を散策してたら肩をよせあって会話している夫婦がいる。他の集団からはポツンと離れて。奥方は周囲にいる人よりも若くて美人だ。私はなんだか亡き祖母を思い出し、そっと近づいた。 『お前は、まだ俺より十歳も若いんだからまだ十年もあるんだ。今なら間に合うぞ。』 なぜか苦し気な表情を浮かべた老紳士が呟く。  『まだそんな事を言ってるんですか、あなた。私はね、あなたと一緒になって一緒にすごしたこの50年間が本当に幸せだったの。それに50年って半世紀でしょ?あと更に半世紀生きられるならともかく、私達の寿命はそんなに長くはありませんしね。どこまででもあなたと一緒にいることが私の幸せなんですよ。』  『今どき古風な奴だよ全く。俺の同級生達の奥方はほとんど着いて来なかったらしいよ。』  『あらそうですか、でもほとんどって事は私一人だけじゃなかったんですねえ。それって、なんか素敵なことじゃあありませんか。』 彼女は微笑みながら青い空を見上げている。 いや、もとい、青い海だ。空と呼んだのは、まだあの塩の土地に水がたくさんあった海があった時の話。  今はもうあの海はない。
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