第2話 アステル

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リヒター「…」 クレイズが出ていったあと、リヒターは立ち尽くしていた。 そっと、アステルが訊く。 アステル「君の…名前は?」 リヒター「……リヒター。」 アステル「そっかぁ。素敵だね僕は、アステル。」 リヒター「……」 アステル「ごめんね。びっくりしたよね。クレイズ、ハーフエルフが嫌いみたいなんだ。…リヒターは悪くないのにね。」 にっこりと、アステルが笑う。 偽りのない 心からの笑顔。 ハーフエルフに全く恐怖がないように。 ただ、 無邪気に微笑んだ。 リヒター「…これ」 リヒターは、この前拾ったアクセサリーを、アステルに渡した。 アステル「あ!拾ってくれたんだね! 良かったぁ…。これ、形見なんだよ。」 アステルはそう言うと、 カチリ… アクセサリーの中心にあった蒼い宝石を移動させた。 中は写真入れらしい。 だが、何も入っていなかった。 リヒター「…写真入れないのか? アステル「うん。親友が出来た時、お母さんが入れてねって…。だからまだなんだよ…。」 リヒター「……そうか。」 リヒターは、どことなく、手が震え、今まであった人々の冷たく、軽蔑した言葉を思い出した。 『お前達、ハーフエルフのせいだ!!』 『ハーフエルフなんか、消えろ!』 リヒターにとって、その言葉は今でも、氷槍のように突き刺さって痛い。 気にしなければいいのに… だが、リヒターにはまだ辛すぎて出来なかった。 そう思った時、アステルが アステル「…リヒター。」 リヒター「……?」 アステル「…泣きたかったら、泣いても、いいんだよ…?」 え…? リヒター「…馬鹿にするな」 アステル「馬鹿になんか、してないよ。 辛いんでしょ?」 リヒター「…!五月蝿いッ…!」 アステル「リヒター。…大丈夫だよ。」 リヒター「…五月蝿いッ!五月蝿いッ!五月蝿ッ…っくぅ…」 リヒターから、雫が零れた。 アステル「リヒター。頑張ったね…もう…独りじゃないよ…」 リヒター「…アス…テ…ルッ…!うっ…っくぅ…!」 アステル「…リヒター…」 ただ、泣きじゃくって アステルにすがり着いた。 アステルは自分より幼いのに どことなく、大人びて 優しかった…。 アステル「リヒター。行こっか。」 アステルが手を伸ばした。 偽りなく 温かくて、 ただ、綺麗に笑って。 リヒター「…あぁ…」 俺は… アステルの手を、 疑わずに握った。 ヒトを疑って、 避けていた自分に アステルは手を伸ばして、 それが、 俺にとって、幸せだった。 これが 俺と… アステルの -初めての出逢いだった…-
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