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ある日の早朝。うららかなお日柄の中、腰の曲がったお婆さんは鼻歌混じりに花に水を与えている。水と太陽の光とお婆さんの愛情を受けた花は、その愛情に応えるかのようにとても綺麗な花を咲かせていた。
丁度、鼻歌にひと区切り付いたのか、お婆さんは水を与えるのを中断し、ふと空を見上げる。雲が一つだけ浮かんでいるのが残念だったが、それでも空はとても澄んでいた。
清々しい気分を彷彿させるような空を見ながら、お婆さんは呟く。
「良い天気じゃのぉ。今日は絶好の散歩日和じゃ」
――と、その時、お婆さんの横を人影が一陣の風の如く駆け抜け、それに続いて複数の人影も駆け抜けた。
嵐に遭った様な被害を受けたお婆さんの髪と花は見事に乱れてしまった。しかし、お婆さんは乱れた髪を直す事無く、おっとりとした口調で「まぁ走るのも良いんじゃがのぅ」と呟いていた。
☆
所変わって、朝から人と活きの良い呼び声で賑わう商店街。
太陽の日差しにも引けをとらない程に輝く頭をしたオヤジは、トレードマークのねじり鉢巻をギュッと締め、大きく空気を吸い込む。そして肺いっぱいに溜まった酸素を空に向かって吐き出した。
「新鮮なトロールの肉があるぞーー!! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!」
掛け声の声量に関しては申し分ないが、掛け声の内容にちょっとばかし難がある。
トロールは数あるモンスターの中でも弱い方で、肉等の戦利品は容易に入手できる。しかし、トロールの肉は世界三大絶味の一角であり、その肩書き通り絶望的な味を持つ。
そんな肉を扱う店なんて気が知れたもんじゃない、と客は一人も寄り付かなかったのは言うまでもなかった。
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