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「はあ、はあ、はあ……。これで気は済んだか?」
「とりあえず、今のところはこれで許しておきます」
激痛による脂汗びっしょりのロルグに対し、宿屋での鬱憤を晴らせたエルールの顔は、どこか涼しげである。
暫くして、ロルグの右手に血が巡ってきて、色が元に戻るのを確認したロルグは、エルールに向かって言葉を発する。
「んじゃ、そろそろ“アレ”があるから、一足先に帰らせてもらおうか」
「あ、待って下さい。お昼のお代を――」
エルールが急いで呼び止めようとするが、そんな行為も虚しくロルグは庶民食堂を後にした。
はぁ、と溜め息を付くエルールは、ふと手のひらの中にある一枚の紙の存在に気付く。その紙には『お食事代御会計』と書かれてあり、その裏側には《悪い、財布忘れた。だから今回はご馳になる。ストーカーのグラーツィア嬢へ》と乱雑な字が並べてあった。
「えーと、次は撲殺……っと」
エルールは口角だけを吊り上げた笑みを浮かべながら、真新しいじゆう帳に書き込み、表紙には『キル・ノート』と記していた。
願わくば、そのじゆう帳に“書いたら実現する”という魔法が掛からない事を祈ろう。
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