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鉢巻きオヤジはいつまで声を張り上げるが一向に客が来ないことから、掛け声を止めてしまう。
「今日も客はゼロ。もう店を閉めちまおうかな」
すっかり弱気になってしまった鉢巻きオヤジは、ふとそんな言葉を零してしまった。
「こんな筈じゃなかったんだがなぁ……。やっぱこんな年で夢なんか見るもんじゃ無かったか」
鉢巻きオヤジはとうとうトレードマークだったねじり鉢巻きをほどいたその時――轟音と共に複数の人影が鉢巻きオヤジに向かって駆けて来た。
その光景を目にした鉢巻きオヤジの瞳に炎が燈る。
――これがラストチャンスだ、と固唾を飲み、入荷したての新鮮なトロールの肉を掲げながら吠える。
「超超超新鮮でベリーベリーデリッシャスなトロールの肉はどうだい!?」
「あぁ、そうかい。じゃぁ貰っておくよ」
走って来る人影の先頭にいた男が、鉢巻きオヤジの手に持っていた世界三大絶味を奪って走り去って行った。
そして後続の集団が罵声を発しながら先頭の男の後を追う。
「待てぇーーい!」
「左に曲がったぞぉっ」
「逃がすなぁぁぁっ!!」
嵐の様な一時により鉢巻きオヤジは口を開けたまま暫く呆然としてた。そして、ふと我に帰ると、さっきまで掲げていたトロールの肉が無いことを確認する。金は貰えなかったが、初めてトロールの肉を貰ってくれたのだ。
鉢巻きオヤジは見ず知らずの男な対し、肉を貰ってくれてありがとう、と心の中で呟き決意した。
――明日も頑張ろう、と。
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