第0話「その男、盗賊なり」

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      ☆  ここは、先程とは違って人気のない路地裏。  その路地裏の一角に、つい先程頂戴したトロールの肉にむしゃぶりつく男の姿があった。  察するに、男はなんとか追って来る集団を撒くことに成功したらしい。 「うーん……。旨いんだが、臭みが強いなぁ。まぁ焼くより茹でた方が良いだろうな」  世界三大絶味と謳われるトロールの肉を堪能しつつも的確な批評をすることから、この男は美食家(グルメ)ではないのかと疑ってしまう。  しかし、男の身形は美食家とは程遠いものだった。薄汚れたフード付きのローブに身を包んだその格好は盗賊(シーフ)だということは一目瞭然だ。  大方、何かを盗み、自警団(ガード)に身を追われているのだろう。 「しっかしまぁ、今回は久しぶりの上玉にありつけたな。これで奴との差が縮まれば良いんだが……」  そう言うと、男は麻袋から白く輝く物を取り出した。  それは、天馬(ユニコーン)の角というもので、そもそも天馬とは上位のモンスターで生息数も少ない。よって、天馬の角はとても稀少価値のあり、高価格で売買される代物なのだ。  久々のお宝をうっとりと眺める男の耳に、本日の鬼ごっこの鬼を務める自警団達の声が響く。 「おい、そっちにいたか!?」 「いや、居ないみたいだ……ん? この辺り、やけに臭くないか?」 「あぁ、確かにあの辺から――見ろっ!! あそこの影から、天馬の角の輝きがあるぞっ!!」 「――っ! やべ、まずった」  
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