33人が本棚に入れています
本棚に追加
☆
ここは、先程とは違って人気のない路地裏。
その路地裏の一角に、つい先程頂戴したトロールの肉にむしゃぶりつく男の姿があった。
察するに、男はなんとか追って来る集団を撒くことに成功したらしい。
「うーん……。旨いんだが、臭みが強いなぁ。まぁ焼くより茹でた方が良いだろうな」
世界三大絶味と謳われるトロールの肉を堪能しつつも的確な批評をすることから、この男は美食家(グルメ)ではないのかと疑ってしまう。
しかし、男の身形は美食家とは程遠いものだった。薄汚れたフード付きのローブに身を包んだその格好は盗賊(シーフ)だということは一目瞭然だ。
大方、何かを盗み、自警団(ガード)に身を追われているのだろう。
「しっかしまぁ、今回は久しぶりの上玉にありつけたな。これで奴との差が縮まれば良いんだが……」
そう言うと、男は麻袋から白く輝く物を取り出した。
それは、天馬(ユニコーン)の角というもので、そもそも天馬とは上位のモンスターで生息数も少ない。よって、天馬の角はとても稀少価値のあり、高価格で売買される代物なのだ。
久々のお宝をうっとりと眺める男の耳に、本日の鬼ごっこの鬼を務める自警団達の声が響く。
「おい、そっちにいたか!?」
「いや、居ないみたいだ……ん? この辺り、やけに臭くないか?」
「あぁ、確かにあの辺から――見ろっ!! あそこの影から、天馬の角の輝きがあるぞっ!!」
「――っ! やべ、まずった」
最初のコメントを投稿しよう!