3390人が本棚に入れています
本棚に追加
自転車に戻り、美羽を再び荷台に乗せてペダルを漕ぎ出す。
「どこ行こうか? どこか美羽の行きたいところある?」
美羽は俺の背中から腰に腕を回し、顔をぺたりと背中にくっつけると
「兄ちゃんと一緒なら、どこでもいい」
とか細い声でいった。返す言葉は見つからなかった。
俺はペダルを漕ぎ続けた。どこに向かっているのか、自分でもよくわからない。目的なんてない。ただただひたすらに自転車を進めて、どこまでも続く道を適当に走っているだけだ。美羽はずっと俺の背中にへばり付いている。一言も喋らない。けれども、背中に当たる美羽の呼気が、俺を安心させる。
「美羽は将来何になりたい?」
いって、どうして俺はこんなことを聞いてしまったんだろうと思った。
「わかんない。でも……」
美羽はいい淀んだ。
「でも?」
「お母さんみたいには、なりたくない」
美羽の腕にきゅっと力が込められた。美羽は母を恨み、そして母の暴力を一生許すことはないだろう。身体だけではなく、心まで傷つけられて、美羽はもう心身ともにボロボロだ。
「美羽なら大丈夫だよ」
そう答えてやることしかできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!