脱却!

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こんな世界なんて壊れてしまえばいい。ついでにみんな死んじゃえばいいんだ、といつしか俺はとんでもない不満を抱いていた。心は荒み、自分を取り巻く世界に失望してしまっている。 ひねくれたやつだ、と自分でも思う。けれどもしょうがないだろと、俺は諦観している。 今日も家の中からは泣き声が聞こえてくる。わんわんと幼い妹の、必死の泣き叫ぶ声だ。そして何かが激しく音を立て割れる音まで聞こえてきた。近所のおばさんたちが、変な目で俺を見て通りすぎていく。 家に飛び込んだ俺は、鞄を置くのも忘れ、母親から美羽をひっぺがし連れ出した。俺は美羽を自転車の荷台に乗せ、できるだけ家から遠くに向かって漕ぎ出した。 「ほら、いい子だから。もう泣き止みな。兄ちゃんは、美羽の味方だから」 自転車を降り、川辺に座り込んだ俺は必死に小さな妹をあやした。えっぐ、くすん、と美羽は鼻を啜りながらまだ泣き止まない。 「はい、プレゼント。可愛いだろ」 帰り道に寄ったゲームセンターで取った、ウサギのぬいぐるみを美羽に渡した。 「大丈夫……か」 美羽は小さく頷いた。うさぎのぬいぐるみを抱くように持ち、痛みを堪えるようにぎゅっと唇を結んでいる。 連日母の暴行を受け、美羽の顔には痛々しい擦り傷と痣が絶えない。腕に足にと浮き上がる、水滴を垂らしたかのようにじわりと広がる多数の痣が、俺の胸を締め付ける。 しばらくして泣き止んだ美羽は、川に向かって石を投げ遊び出した。俺は土手に腰を下ろしてそれを眺めている。嫌なことを全て振り払うかのように、美羽は何度も何度も投石していた。小石に苦痛や怒りを乗せ、自分の身体から放り出しているかのようだった。 それからいくらか時間が経った後、ペットボトルを手にした美羽が、俺のところに戻ってきた。中には何重にも折り畳まれた紙が入っていた。取り出し、開けて見る。
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