届け物

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「お母さん、ちょっと疲れているんだよ」 父は母の背中をさすりながらそういった。 母の暴力はおさまらなかった。美羽が泣けば、あやすよりも先に、暴力で泣き止まそうとする。それで泣き止まなかったら怒鳴り散らし、暴行はエスカレートする。もちろん、そんなことで美羽が泣き止むはずがない。そして終いには母が泣き出す始末であった。 母の感情の起伏が激しくなったのはこの頃からだ。急に落ち込んだり、急に怒り出したり、意味もなくものを壊したり、とにかく落ち着きがなくなった。 俺は母の代わりに妹の世話をすることになった。何をすればいいのか全然わからなかったので、母のやっていたことを見よう見まねでやっただけだが。それでも母は、急に怒り出したとき美羽に怒りをぶつけていた。俺は母を恐れて、足が竦んで何もできなかった。 それが今まで継続されている。美羽は完全に母を恐れている。俺が美羽と会話するときも、できる限り母のことは口にしないように気をつけている。美羽の身体に染み付いた恐怖と痛みは、「お母さん」という言葉を聞くだけで、条件反射のようにビクッと反応する。そして恐れる。
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