彼方より

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彼が目覚めた時、不思議な場所に居た。 最初は当然の如く、あ、夢を見てるんだ、と思った。 夢ではない、と判ると何かの冗談だと思った。たまに目にする、テレビのいたずら番組━ドッキリってやつだ━と思った。 (こんな大掛りないたずらを、僕の知り合い達だけでやれる筈はないし) きっとテレビだ、と思った。 次に、睡眠薬でも飲まされて、何処かの国に拉致されたのだ、と思った。 最後には、自分の頭が変になったんだ、と思った。 どれも違った。目が覚めた時、彼は全く見知らぬ世界に居たのだった。  全く見知らぬ世界…の筈だ…。 中世ヨーロッパ風の街並み。どう見ても外国人としか見えない住人。着ている服も現代の物とは全然違う。 話している言葉は、英語の様だったが、何処か違う様でもあった。━元々、英語なんて喋れないし、聞き取りも出来ないから、はっきりとは判らなかったが━ だが、意味は理解出来た。 相手が話すと、その意味が直接頭の中に飛び込んで来る、そんな感じだった。 逆に彼が話すのは日本語だったが、相手も理解出来る様だった 文字も理解出来た。 目に映っているのは、漢字でもなく、平仮名でも片仮名でもなく、アルファベット、ロシア文字、ギリシャ文字とも違う。 “ここ”で使われているのは、中国の少数民族が使うと云う、トンパ文字の様なものだった。 尤も、彼はその文字を、テレビの紀行番組で紹介されていたもので、ちらりと見ただけなので、本当にトンパ文字なのかは判らなかったが。
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