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彼が文字も理解出来る、と気付いたのは看板のお陰だった。
看板。
街の中には様々な店が在った。店の看板に書かれている文字…見た事も無い文字だったが、どれも理解出来た。
目には不思議な文字か映っているのだが、やはり頭の中に意味が飛び込んで来る。
雑貨屋、肉屋、魚屋、パン屋、洋服屋、貴金属店に、子供の為の駄菓子屋…。
それから、宿屋…。
ホテルでも旅館でもなく、宿屋、と理解した。
そして…
武器屋…。
武器屋?
武器屋!?
武器屋!!
ぶ き や!!
なんとも物騒そうな店に興味を惹かれ、恐る恐る入ってみた。
そこは確かに武器屋だった。様々な武器が置いてある。だが、銃の類いは一切無かった。
代わりに、大小様々な剣━片手で持てそうな細身の剣から、両手で扱うのであろう大剣まで━が並べられている。
そして、棍棒の先に棘の付いた金属の玉が取り付けてある物から、弓矢に投げ矢、様々な大きさ、形のナイフ。
(あれは…レイピア?そしてこれがメイス…だよな?)
実物は初めて見た。
(本物の武器だ!)
(人を殺す為の道具だ!)
呆然として、所狭しと並べられた、剣呑な道具を眺めて行く。
ひと際、目に付くのが、いかも重そうな巨大な両刃の斧。
(これがバトルアックスってヤツか…)
そっと触れてみる。
(こんなもん振り回すのは、とんでもないバカマッチョなんだろうなぁ…)
目覚めた時から混乱している頭は、初めて目の当りにした人殺しの道具のせいで、益々混乱し、間抜けな感想しか浮かんで来ない。
「お客さん、何かお探しかね?」
背後から、いきなり無愛想な声をかけられて、彼は思わず飛び上がりそうになる。
振り返ると、この店の主人なのだろう、彼より頭二つ分は背の高い、中年男が立って居た。
茶色い髭もじゃの顔に筋肉質の太い腕、体の厚みも彼の三倍は有りそうな大男だ。
正に先程の巨大な斧を振り回すのに相応しい、超巨漢。
誰が見ても、武器なんか売ってないで、自分が斧担いで戦場に行け、と言いたくなるだろう。
その武器屋の主人が、うさん臭そうに彼を見下ろして居る。
(そう言えば、昨夜着て寝たパジャマに素足と言う格好だ。うさん臭い奴に見られても仕方が無い…)
「いえ、ちょ、ちょっと…、その、ま、また、来ますぅ~…」
思わず愛想笑いを浮かべ、もごもごと口籠りながら、彼は逃げる様に店から飛び出した。
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