彼方より

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逃げる様に走り出した彼は、街外れの営門近くまでやって来た。 営門…そう、この街はぐるりと壁に囲まれて居た。 そして東西南北に門が在り、街の出入りは門をくぐらなければ出来ない。門の所には、槍を携えた門番までおり、さながら中世ヨーロッパの城塞都市。 彼が営門━後で知ったが北門だった━の近くへやって来た時、丁度外から入って来た一団があった。 声高に談笑しながら、彼の方に歩いて来る。 先頭は、金属の胴鎧を着け、やはり金属の小手と脛当てに大剣を持った男。 さっきの武器屋みたいな、髭もじゃで中年の巨漢だ。 赤毛を短く刈り込み、顔は人間と言うより熊に近い。 やや遅れて、鎖帷子を着て槍を持った男。鎖帷子は、肩を金属の肩当てで補強し、やはり金属の小手と脛当てを着けている。 熊男よりは若く、やや小柄だが、勿論彼よりはずっと大きい。こちらはくすんだ金髪を肩まで伸ばし、口髭をたくわえている。結構、整った顔立ちの伊達男だ。 伊達男に並んで、傷だらけの皮鎧を着た男。腰のベルトに、何本もナイフを差している。 痩せて、伊達男より更に小柄で、彼とそう変わらない体格である。一見、剽軽そうだが、談笑しながらも、眼光鋭く、油断無く辺りを窺っている様子。 イタチか何かを思わせる顔付きだ。 最後尾は、不思議な文様が描かれた皮鎧を着て、フード付きのマントをはおり、腰にレイピアを吊した男。 いや、フードを深く被っており、イタチ男より更に華奢な体付きで、男か女かは判らなかった。 他の三人とは違い、黙って後を付いて来ているので、声で判断する事も出来ない。 「今日のアガリは、なかなかのもんだったなあ!」 と、熊男が、だみ声で叫び、吠える様に笑う。 「へへっ、でっかい獲物は、俺っちの鼻が見逃さねーからよー!」 熊男の言葉を受けて、イタチ男が自慢げに鼻をひくつかせる。 「全くだな!頼りにしておるぞ!」 伊達男が豪快に皮鎧の背中をどやし付け、大笑する。 この陽気で、しかし、うっかり下手な事を言ってそれを聞かれたら、命が幾つ有っても足りなそうな物騒な一団が、彼の側を通り過ぎた。 その時、最後尾のマント男(?)がフードを払いのけ、ちらりと彼の方を見る。 フードに隠されていたのは、銀髪に、男か女か一瞬には判断出来ない程の端正な顔。 やや吊り上がった目。 瞳の色は明るい翠。 そして尖った耳…の男。 エルフ…だ。
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