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立ち並ぶビルの隙間から吹き抜ける強い風が、黒い布をはためかせた。砂埃を被った穴だらけの大きな布が繊維に絡まる砂埃を吐き出す。
五つの白線が走る幅広い道路。先の方がトンネルの中に続いている大きな道路の中心に、その黒い布が風にたなびいている。
何か棒状の物に引っ掛かっているようだった。突風に近い風を受けてもその末端が宙に踊るだけで、その芯は微動だにしない。
道路の中心にぽつりと立つ棒状の何か。標識ほどの高さもなく、不自然な存在にして自然な佇まい。
不意に風が唸る。まるで竜巻でも起こりそうな轟音と共に突風が吹き荒れ、あちらこちらの物をさらってゆく。
それまではためくだけだった黒い布がいよいよ引き裂けてしまい、耳障りな音を残して破れ去った。ボロ布はあっという間に風に浚われて、廃墟の中に消えてしまう。
そして黒い布で見えなかった物が露になる。
そこに佇んでいたのは、黒い像だった。
光沢のある黒い鉄で出来た、人間によく似た「ナニか」の彫像。異様に発達した筋肉質な男の黒金の像だ。
膝をつき、空を仰ぐその像は不思議と、ノスタルジックな雰囲気を放っている。芸術的で懐古的。言い様のない美しさはまさに傑作の一言につきる。
しかしその像には不可思議な箇所がある。それは頭部の造形が、まるで悪魔のそれである事だ。
ねじれた羊のような角が生え、獅子のように立派な牙を持つ。その異常なまでの筋肉をまとう肉体も相まって、禍々しくもある。
いい例えるなら、懐古的な悪魔とでも名付けるか。
そんな像が、道路の中心で佇んでいた。
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