序・戦士

3/3
前へ
/4ページ
次へ
立ち並ぶビルの隙間から吹き抜ける強い風が、黒い布をはためかせた。砂埃を被った穴だらけの大きな布が繊維に絡まる砂埃を吐き出す。 五つの白線が走る幅広い道路。先の方がトンネルの中に続いている大きな道路の中心に、その黒い布が風にたなびいている。 何か棒状の物に引っ掛かっているようだった。突風に近い風を受けてもその末端が宙に踊るだけで、その芯は微動だにしない。 道路の中心にぽつりと立つ棒状の何か。標識ほどの高さもなく、不自然な存在にして自然な佇まい。 不意に風が唸る。まるで竜巻でも起こりそうな轟音と共に突風が吹き荒れ、あちらこちらの物をさらってゆく。 それまではためくだけだった黒い布がいよいよ引き裂けてしまい、耳障りな音を残して破れ去った。ボロ布はあっという間に風に浚われて、廃墟の中に消えてしまう。 そして黒い布で見えなかった物が露になる。 そこに佇んでいたのは、黒い像だった。 光沢のある黒い鉄で出来た、人間によく似た「ナニか」の彫像。異様に発達した筋肉質な男の黒金の像だ。 膝をつき、空を仰ぐその像は不思議と、ノスタルジックな雰囲気を放っている。芸術的で懐古的。言い様のない美しさはまさに傑作の一言につきる。 しかしその像には不可思議な箇所がある。それは頭部の造形が、まるで悪魔のそれである事だ。 ねじれた羊のような角が生え、獅子のように立派な牙を持つ。その異常なまでの筋肉をまとう肉体も相まって、禍々しくもある。 いい例えるなら、懐古的な悪魔とでも名付けるか。 そんな像が、道路の中心で佇んでいた。 。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加