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「つきあって……ないの?」
「だから~そうだってば!」
まわりの騒めきに、あたしの驚いた声はかき消されていた。
愛は止めていた手を、再び動かしている。
黒いペンキが、手に跳ねていた。
自分の気持ちを認識してしまったあの日から、約2週間ほど過ぎたある日の放課後、あたしは愛にずっと聞きたかったことを口にした。
『藤本くんといつから付き合ってるの?』
『いつから』
そう聞いたのは、『付き合ってる』という事実が、すでにそこにあると思ったからだ。
でも、愛の答えは、あたしの予想とは違っていた。
『付き合ってないよ!全然ッッ!』
彼女はあわてた口調で、そう答えた。
「そう…なんだ……。」
あたしは視線をダンボールに戻した。
ペンキがコッテリ付いたハケを持った。
放課後なのにどのクラスにも人が多く、異常に賑わっていた。
文化祭が来週にせまっていたからだ。
準備の大詰めを迎えている。
あたしと愛は、お化け屋敷に使うダンボールを、黒のペンキで染めていた。
いよいよ、あたしが愛に問い掛けようと思ったのは、藤本くんの姿が見えなかったからだ。
彼がいるところでは、聞けなかった。
「なんで?」
「ん?」
「英里、何でそんなこと聞くの?」
愛が、切れ長の目をパチリと見開き、あたしを上目遣いで見た。
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