第2章

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「…花」 『月』への家路を急ぎながら香椎はじっと考える。 あれは赤い満月の夜。 泣き叫ぶ悲鳴。 家中に飛び散る鮮血。 押し入れの中で、肩から血を流しながらも、泣き声を聞かないように耳を塞ぐ。 隙間から見えるのはアヤカシに抱えられ必死で抵抗する小さな男の子。 『お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!』 気が狂いそうな助けを呼ぶ声を聞きたくないようにますます耳を塞ぐ。 そんな中、ふわりと漂う、ジャスミンの花のような香り。 それは、男の子の泣き声が遠くなるほどにだんだんと薄れていく。 フラッシュバックのように脳裏に浮かぶ映像に、香椎はブンブンと頭をふる。 「…似てる、弟の時と」 その言葉だけが香椎の口から漏れた。
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