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「なぁ、てる…」
「命です」
「…命」
ちくしょー、なんなんだこれから大事な話があるって時に…気が抜けちまったじゃねぇか。
俺はもう一度深呼吸をして、また命に話しかけた。
「命、これから話すことは黙って聞いてほしい。異論なら後できく」
流石の命でも俺が真剣な話をしようとしているのがわかったらしく黙って頷いた。
それを満足げに見た俺は悩みをぶちまけた。
「俺は…お前の好意をとても嬉しく思っている、こんな取り柄もない俺に十年も好意を抱いてくれて」
…わかりやすい奴だ、俺がこの話をし始めると共に笑顔になりやがった。
その分この後の話がやりにくい。
「しかし…だ」
本当にわかりやすい奴だ、俺が『しかし』という言葉を使っただけで不安げな顔をし始めた。
やっぱり…やりにくい。
「俺みたいな奴の為に十年も使っている、これ以上無駄な時間を使わせたくない」
自分の思っている事を全てぶつける、伝わっただろうか、俺の思っている事は。
命は天使のような微笑みを浮かべ、話し出した。
「光奈斗様は知っていますか、貴方と出会った後の私を」
「…知るわけないだろ」
「ふふっ、それもそうですね」
命は楽しそうな笑みを浮かべ、また俺の頭をなで始めた。
俺も、今度はあいつが真剣な話をしようとしているのがわかったから、何も言わなかった。
ちょっと心地よかったのもあったが…。
「私は…覚えているかもしれませんが静かな子どもでした」
それは覚えている、あの夢で見た命と今の命は性格的にはわからない。
「私はあの日以来ずっと…ずっと貴方に会うのが楽しみだった、退屈でしかない毎日に乱暴に色を塗ってくれた」
思い出すかのように空を見て、また微笑む命。
心なしか誰かに話すのが嬉しそうだった。
「明日こそ会えると、ずっと信じつづけて十年…やっと会えた。私は迷惑だなんて絶対に言わない、お婆ちゃんになっても私は胸をはっていける」
俺をベンチに下ろし、話ながら歩いてこっちに振り返る。
「貴方の心配は…なくなりましたか?」
…そう、怖かっただけだった、あの強い思いが。
容姿がいいからなどの理由で何度か気持ちを伝えられた事ならある、けれどここまで強い思いは初めてだった、だから怖かった。
俺は立ち上がり命のところまで歩き、頭に手を乗せる。
「とりあえず、よろしくな」
「…はい!」
今は…これでいい。
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