語り部

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クロムに連れられてたどり着いたのは町外れの小さな古びた小屋だった。 クロムはここに住み、昼間はアクリア中あちこち行ったり来たりしているのだ。しかし、歩くのが遅いため、町中で野宿することも珍しくないという。町の人がクロムの居場所を知らなかったのはそのためだ。 小屋の中は少し狭いが、四人入るには充分な広さがあり、それなりに整頓され居心地が良さそうだった。 「茶も出せない狭いとこだが、くつろぎな」 そう言いながらクロムはランプに明かりを点して身の回りを軽く整頓した。 「さてと……」 準備が整うとフレイ達と向き合い、古びた本を取り出して最初のページを開いた。 メイは一瞬本の中を見たが、見たこともない字で書かれていて読めなかった。さらに本そのものがかなり古く、字は所々掠れ、ページも破けたりしている。 クロムは静かに語り始めた。ランプの灯が揺れ、雨音が聞こえてくる。その中でもクロムの声ははっきりと聞こえ、瞼の裏に物語が自然と浮かび上がってくるような語りだった。
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