涙の都

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船を漕ぐ船頭に話題を投げかけた。アクリアの民なら誰もが知っている『メト伝説』。 「お客さん、『メト伝説』なんか調べてどうするんです?」 「どうもしませんよ。学会で発表するつもりもないし、本にまとめるつもりもない。強いて言うなら記憶に留めておきたい。ただそれだけです」 船頭は眉間にシワを寄せ、できもしない骨董品の目利きをするようにフレイを見つめた。 「なら、クロムっていう老人を訪ねるといい。『メト伝説』に恐いくらい詳しいから、何かいい話聞けるかもしれない」 「クロム?……わかりました。ご親切にどうも」 「これも仕事の一部さ。さあもうすぐ着くよ」 船はアクリアの港に到着した。船頭は慣れた手つきで船を停め、荷物を下ろした。三人も船から下りた。ズゥはいつも通り元気だが、メイだけは少し具合が悪そうだ。どうやら初めて乗る船に酔ったようで、ズゥが心配そうにメイの顔を覗き込んだ。 「メイ……だいじょうぶ?」 「大丈夫よ……ありがと」 メイはズゥの頭を撫で弱々しく微笑んだ。
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