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数分の後、凉也に手を引かれてそのアンドロイドは部屋に入ってきた。
―――アンドロイドは普通、買い手へのアピールおよび見栄えの良さを重視して、美しく、もしくは可愛らしく作られるのが定石である。
彼女……と言っていいのだろうか、凉也の連れてきたアンドロイドもまた、例に違わず美しい少女のカタチをしていた。
「この子だよ。
預かって欲しい子」
と、凉也はそう言ってからなぜか苦い顔をしながら啓に近寄り、耳打ちをした。
「……あのね、誤解しないでね。
この子人見知りだから……啓、プライド高いからあれだろうけど……ひ、人見知りなだけだから……ね?」
「…………?」
言っていることのわけが分からず、啓は首を傾げた。
「と、とにかく、人見知りだってことだけ覚えてて」
「あ、ああ……分かった」
とりあえず啓が納得したことを知ると、凉也は安堵した様だった。
そして彼は、今度はアンドロイドの方に何やら耳打ちをした。
アンドロイドはそれを聞いてこくりとうなづき、それから啓のほうに向き直った。
「ミサキ」
「……は?」
「名前」
それだけ言うと、アンドロイド――ミサキは、もう話すことは無いと言うように口を閉じてしまった。
「み、ミサキちゃん、もうちょっと何か自己紹介を……」
「特にありません」
「いやだって」
「ありません」
凉也はがっくりうなだれて、それ以上は諦めて口を開かなかった。
「……あー、あのね、うん……ミサキちゃん、人見知りなだけだから……うん、ちょっと……こんな感じだけど……お願いします」
ミサキは落ち込んだ凉也を気にも止めず、無表情のまま直立している。
補足たが、先ほど言ったようにアンドロイドは買い手へのアピールのため、人間としてのプラス要素を多く含むことが大半だ。
例えば外見、それに、愛想のよさ、など。
……つまり啓もそういうのを予想していたワケで。
―――すごく……不安です。
凉也の心の呟きは当然のごとく、誰にも聞こえなかった。
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